子供の頃から基本的にクモは殺さないようにして生きてきた。見た目も特に不快感はなく、子供ながらになんとなく益虫であるという知識があったからだ。「朝の蜘蛛は良い蜘蛛、夜の蜘蛛は悪い蜘蛛」とかもおばあちゃんから教わった気がする。ということで、夜に出る蜘蛛は潰すこともあったが、大体家で蜘蛛を見かけたらなんとか外に逃すようにしていた。
一人暮らしを始めて早一年、私は家で蜘蛛を飼っている。こいつだ。
家で一番見るタイプのやつだ。名前はアダンソンハエトリというらしい。子供の頃よろしく、今までは見かけたら外に逃すことが多かったが、最近は見逃すことにしてみた。わざわざ視界に入ってきてブンブン飛び回るコバエを捕食してくれるかもしれないという期待を抱いたからだ。一人暮らしを始めてから色々と学び、ゴミ箱の中でショウジョウバエを増殖させた経験もある私は、生ゴミは冷凍庫にぶちこむという知識を得た。しかし、一人暮らし用の狭い冷凍庫はすぐに圧迫されてしまう。節約厨はご飯とかおかずとか、会社に持っていく弁当とか色々と冷凍するものがあるのだ。そこで妥協して、流石にこれにはハエは湧かないだろうというものはそのままゴミ箱に捨てた。ちゃんと拭いた生肉のパックとかだ。するとどうだろう。チラホラとコバエが復活してきた。もうこれは一体どうしたものだろうか。奴らは無限湧きなのだろうか。そんな奴らへの対抗策として、アダンソンハエトリに永住権を与えたみたのだ。
こいつが歩き回っている分には別に良い。コバエと違って鬱陶しくないからだ。ハエトリというドストレートなネーミングにも期待が持てる。
さて、結果はどうだったのか。コバエは依然として飛んでいるし、こいつも歩き回っている。結局は虫二匹を野放しにしているだけだ。しかも、こいつは見るたびに大きくなっている。コバエを捕食せずに、こいつは一体何を食べて大きくなっているのだろうか。少し前は一回り小さい別の蜘蛛と一緒に見かけたこともある。子供だろうか?子供が持てるまでにこいつは肥えたのか。流石に二匹も蜘蛛を飼うのはごめんだったので、子供の方は逃した。
コバエを取っている気配はないが、ここまで大きくなっているということは何かしら餌とするものがあるからだろう。調べてみると、ダニとかも食べているらしい。ならば、もう少しだけ同棲を続けてみよう。餌がなくなったら勝手にこいつの方から出ていってくれるだろう。