『同志少女よ、敵を撃て』を読んだ

書店でタイトルを見た瞬間に惹かれて買ってしまった。やはり七五調は日本人の心に深く刻み込まれたリズムなんだろう。タイトルを見ただけでもはや満足しかけた。

内容としては「同志」という言葉を使ってることからもなんとなく伺える通り、第二次世界大戦のソ連が舞台になっている。ドイツ軍に故郷の村を破壊され絶望した少女セラフィマが鬼教官に見出され、同じような境遇の少女たちと共に狙撃手として養成されて過酷な戦場に送られる、というのが大筋の物語。この内容だけで読んでみよう!という人は少ないかもしれない。何しろ600ページ近くあるなかなかのボリューム。しかし私は二日間で読み終えてしまった。確かに日本人にとってはあまり馴染みがないテーマだし、ソ連に暮らす人々の価値観はどうにも掴みづらいものがある。コサックとかパルチザンとか聞き慣れない単語が出てくる。軍人達はお互いを同志と呼び合っているし、敵のドイツ軍をファシスト、ヒトラーを独裁者と罵りながらも自らはスターリンという大量粛清を行った独裁者を戴いている矛盾した国家に生きている。しかし主人公の発言からも分かるが、その矛盾を抱えた上で一人一人が戦場にいて敵を狙撃することにどんな意味を見出すか、というのが一つのテーマであったりする。
最近坂の上の雲を読んだが、あの本に出てくる戦争描写が一種英雄的なのに比べて、この本での描写はただひたすらに陰惨でリアルな戦場を描いている。その中でも特徴的なのが、戦場における女性の扱いだ。占領下の街で敵国の軍人に弄ばれる女性達、ドイツ軍人と密通した情婦、あるいは女給として従軍したら売春宿に送られた女性、パルチザンとして活動して処刑される女学生。こうした戦場でのリアルを経験し、狙撃手としてのスコアを上げながらもついに故郷の村で母を狙撃した敵スナイパーの情報を掴んだセラフィマ。ラスト数十ページは全く展開が読めず裏切りの連続だった。今までの戦場で見てきた物事が全て綺麗に回収され、最後の行動を選択するセラフィマ。タイトルにある『敵』とは誰のことだったのか。ぜひ実際に読んで確かめてみてほしい。

(ネタバレを避けようとしたらファミ通の攻略本みたいになってしまった)

До свидания!