昭和創業のいかにも地域密着型という弁当屋が近くにある。少し歩けばオリジン弁当があり、安定を求めるならそこに行けばいい。しかし、通りに面した情緒のあるこの弁当屋で今日のお昼ご飯を買ってみようという気になった。店の看板には黄色背景に黒文字で「お弁当」と掲げられており、周りにはぐるりと電球が取り付けられてある。これが夜になると光り出す。しかしこれが逆光になり、肝心のお弁当の文字は読みにくくなる始末だ。そうした最適化されていない装飾品の数々も、個人店の醍醐味というものだ。その店には注文用のカウンターのみがあり、イートインはできない。透明なプラスチックで区切られた注文用のカウンターからは、厨房とカウンターを区切るステンレスの合間に奥の厨房が少し見えるようになっている。この隙間から、椅子に座り、頭を抱えている初老の店主が見えた。すいませんと声をかけると店主が寄ってきた。あらかじめカウンター横のメニュー表を見て注文を決めていた私は、近づいてくる店主に「サービス弁当一つ」と注文を通した。店主はその風体に似つかわしくない割とはっきりした声ではい、と答え、あれこれと色んな種類の鍋をあけ、料理を詰め込んでいった。私はその間に再度メニュー表を点検していた。メニューは意外と多くある。一番安いものでは300円台のものもあったように記憶している。高いものでも1000円は超えない。私が頼んだサービスセットは850円だが、メニューの中ではそこそこ高い部類に入る。おそらくこれがこの店のイチオシであり、サービスと書いてあるからには値段の割に豪華な内容だと推測したからだ。3分ほど待って、店主が弁当を運んできた。弁当は長細い発泡スチロールに入れられており、それが複数個段々に積み重ねられている。会計を終えたが、袋はくれなかった。これをそのまま手に持って帰るのも滑稽な姿だと思い、私は普段から持ち歩いているマイバッグに弁当を突っ込み、家路についた。
家に帰り、蓋を開けてみる。一段目に入っていたのがこれだ。

これで850円だと?馬鹿げている。地域密着型で人情でやっているのかと思いきや、とんでもない詐術で利益を出しているのかもしれない。駅から住宅街を繋ぐ割合人通りの多いこの通りで、あんぐりと口を開け、飛び込んでくる初見の獲物を今か今かと待ち侘びていたのか。これより前にこの弁当屋を警官が利用しているのを見たことがあるが、彼も家に帰った瞬間にハッとしたことだろう。彼が職務を終える前に弁当を開けていたら、何かしらの軽犯罪で店主を御用にできたかと思うと、とても残念だ。私は二段目の蓋を開け白米を確認した。少量のおかずである唐揚げとオムレツをちまちま、配分を間違えないようにご飯を多めにしておかずを節約しながら食べた。唐揚げはなかなか大きい胸肉の唐揚げで、醤油系の下味がついていた。もも肉ではないのが残念だが、この味付けのおかげでおかずとしての役目を十二分に果たしてくれた。オムレツは中に煮物が入っており、卵も外はしっかり、中はふんわりの良い焼き加減だ。残念だったのはボリュームと、あとはおかずが冷めていたことだ。ご飯をほとんど食べ終わった私はあることに気づいた。もう一つ、手をつけていない箱があったからだ。今まで気づかなかったが、弁当は二段ではなく三段だったのだ。三箱目を開けてみると、このような内容だった。

生姜焼きがこんもりと盛られていた。なるほどこれならサービスランチという名前にも納得だ。詐術だとか軽犯罪だとか言っていたのが申し訳なく思える。付け合わせが一段目と同じなことと、生姜焼きもこれまた冷めていたのが残念だったが。私は残り少なくなったご飯を見て悲しい気持ちになり、少し手をつけてから冷凍庫にしまった。これでもう一日分のおかずが手に入った。競合の多い都内にあり、チェーン店の攻勢にも耐え抜いた個人店にはそれだけの底力があったのだ。あれからこの店を通るたびに、性懲りも無くピカピカと光るあの哀れな電球にも一分の威光を感じられるようになった。