『ピープルウェア』を読んだ

今回読んだ本は『ピープルウェア』です。ソフトウェア開発分野での名著だということで、去年のいつ頃かに社内制度で買ったのですが、いかんせんそこそこ分厚かったので積んでしまいました。

この本の主題は、「ソフトウェア開発の現場における課題のほとんどは技術的なものではなく、人間が原因。つまり社会学的な観点から分析するべきでは?」というものです。この観点に立って、さまざまな問題について語られていきます。扱われている内容は、マネジメント、採用、オフィス環境、生産性、組織文化など多岐にわたります。 以下、各章ごとに、その章のテーマと自分が特に関心した話をまとめていきます。

第I部 人材を活用する

先に述べた、この本の主題となるテーマが述べられています。この章で気になったのは「パーキンソンの法則の改訂」です。パーキンソンの法則とは、「仕事の量は設定された納期と同じくらいまで膨らむ」というものですが、著者はこれはソフトウェア開発においては当てはまらないとしています。プログラマはたいてい楽しく仕事をしていて、仕事を仕上げるという一番楽しい瞬間を先延ばしにしたくないからです。(本当か?)

また、たまにTwitter等で引用されているのを見ますが、「目標値設定者による生産性の違い」というデータも面白いです。誰が目標を設定したか(プログラマ自身か、マネージャーか、システムアナリストか)で生産性が違うというデータですが、「目標なし」とした場合の生産性が一番高くなっています。

第II部 オフィス環境と生産性

オフィス環境によって生産性がどれほど違うか、理想的なオフィス環境とは何かがテーマです。この章では様々な企業を対象としたプログラミングコンテストの結果が載っています。

  • 最優秀者の測定値は、最低者の約10倍
  • 最優秀者の測定値は、平均的プログラマーの約2.5倍
  • 上位半分の平均測定値は、下位半分の平均の2倍以上

ここで面白いのは、使用したプログラミング言語、経験年数、年収は結果と相関関係が見られなかったことです。関係が見られたのは「誰とチームを組むか」でした。ここで、各企業ごとのオフィス環境の違いという真の原因が出てきます。特に、プログラマが電話対応をしたり、社内放送が流れている会社では、プログラマが開発するための「フロー状態」に入ることができず、生産性が下がるとされています。私の所属している会社にはこういったものはありませんが、Slackの存在でそれに近いことになっているなという感覚があります。Slackの返信は非同期ですが、少なくともオンラインの間は暗黙的に即時的な返信を求められている感じがします。
同期性の高さ順に並べると 電話 > Slack > メール となるイメージです。Slackは非同期というよりは準同期。とはいえ目の前の作業に集中できない環境を作り出していることは否めません。いや、もちろん使い方の問題ではあります。しかし、少なくとも即レスを称賛するような文化があるところでは、集中力の分散に大いに役立っていることだと思います。Slackをはじめとしたチャットツールとの上手い付き合い方については、今後の課題としたいです。 最後に、オープンオフィスがどれだけクソかを語ってこの章は終わりです。

第Ⅲ部 人材を揃える

採用や、退職、良いチームを構成するにはどうすれば良いかについて扱っています。

極端に単純化して言えば、社内の新しい世代的断絶は、注意の向け方である。若い人々は注意を多方面に分散させるのに対し、年長の同僚たちは、1つか、多くても2つまでの仕事にかかりきりになる。

若い世代にはテクノロジーの進歩で「継続的な注意の分散」という状態が起きているとされています。音楽を聴きながらSNSを見つつ宿題をして...みたいなことです。これと同じように仕事をすると、先ほど説明したフロー状態に入ることができず、仕事の生産性が下がります。よって、注意を分散させるような作業(SNSの確認など)は頻繁に行わないように制限を設けるべきだとしています。
先ほど述べたSlackの弊害についてもこれに近いような気がしています。Slackに常に反応するのを求めるより、ある程度の時間を決めてバッチで確認しないと、集中力の分散に歯止めがかかりません。すぐに反応して欲しい場合にのみ通知を飛ばすとか、そういうメリハリのある通知方法ができればいいんですけどね。

第Ⅳ部 生産性の高いチームを育てる

タイトル通り、生産性の高いチームを育てる方法について書いています。チーム殺し7つの秘訣など面白いテーマが並びます。

よいチームには、選ばれた者という感覚がある。

私が所属している会社では直近で組織再編があり、私の所属している部署は解体されて別の大きな部署の中の1グループとなりました。これが発表されたのは、再編当日でした。今までは部署だったものが、鉢をすげ替えられるように別組織に組み込まれ、動揺と混乱が起こったのを覚えています。それが原因かは分かりませんが、その件から3ヶ月近く経った現在、数人が退職や志願による別組織への異動などでグループを去りました。事前に何の説明もなくこんなことをされては、この本で言う選ばれた者という感覚や、特別感を失っても不思議はないと思います。正直、私も前に所属している部への愛着はありましたが、今所属している組織への愛着はあまりありません。なんか愚痴っぽくなってしまいましたが、何が言いたいかというと、素直に内容に共感できたということです。

第Ⅴ部 肥沃な土壌

企業文化についての章です。

本当に有効な会議は、出席者全員が何らかの問題を一緒に討議するだけの理由があるときに開かれる。ミーティングの目的は、合意に達することだ。

自分の予定を見ても、共有のためだけの会議がいくつか入っています。こういった会議は事前に共有事項をまとめておき、回覧するだけでどうにかならないものでしょうか。まあ偉い人って時間ないからまず見ないんですよね。彼らの時間を拘束するためにあえて時間をブロックしなければいけない。そのための会議に招待されるのはうんざりします。

第Ⅵ部 きっとそこは楽しいところ

社員が一番喜ぶのは、仲間と一緒に同じ体験をするように計画された旅行である。

そんなわけないだろ。